脊椎外科班

脊椎外科班
  • 当院での2019年度脊椎手術症例は年間276件でした。当教室の脊椎班では、橘主任教授を筆頭に脊椎変性疾患だけではなく腫瘍、脊柱変形、関節リウマチ、感染性疾患から、全身合併症のある高齢者や透析患者などの高リスク症例も他科と連携し幅広い分野で手術を行っていることが特徴です。また最近では、早期離床や早期社会復帰を目指して、従来行ってきた顕微鏡手術だけでなく、MIST(最小侵襲脊椎治療)やBKP(バルーン椎体形成術)などの最小侵襲手術に積極的に取り組んでいます。さらに脊髄モニタリングを併用することにより、若年者だけでなく高齢者に対しても安全に脊柱変形矯正手術を行うよう心がけています。

    脊椎疾患の多くは保存的治療で改善することが少なくなく、そのため手術のタイミングが重要です。我々は各脊椎疾患の自然経過と予後を患者様に説明し、薬物療法、ブロック療法、理学療法などの保存療法を十分に行った上で的確なタイミングでの手術をお勧めする方針としています。一方で、運動麻痺が出現した場合や放置すれば予後が悪い疾患に関しては、早急に外科的治療を行う方針としています。大学病院という機関病院の特性上、手術までの待機期間が長い場合があります。そのため早期の手術が望ましい場合には、近隣の関連病院での手術をお願いさせて頂く場合があります。外来受診時には脊椎専門医にお気軽にご相談ください。

脊椎疾患

腰部脊柱管狭窄症

  • 原因と病態

    加齢や労働に伴う腰椎の変形により、神経の通り道(脊柱管)が狭くなり神経を圧迫します。脊柱管のまわりにある、靭帯・骨が分厚くなることや、椎間板が突出することで脊柱管狭窄に至ります。神経が圧迫されると神経の血流が低下し症状を引き起こします。

  • 症状

    歩いているうちに、腰に負担がかかり神経の血流が低下し、神経が傷害されます。下肢の痛みやしびれが強くなり歩けなくなり休憩が必要となります。間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれます。前かがみで歩くと症状が楽になるという特徴があります。脊柱管狭窄を放置しておくと、尿や便の調節ができなくなる膀胱直腸障害へと進行する場合があります。

  • 画像所見

    単純レントゲン検査、MRI、脊髄腔造影検査(ミエログラフィー検査)を行います。

  • 治療法
    ①保存治療

    第一選択は内服薬による治療です。圧迫による神経の血流低下が原因であるため、血行改善剤で症状改善を目指します。また痛みの改善には鎮痛剤を使用します。症状が改善しなければ各種ブロック注射・理学療法を行う場合もあります。

    ②手術

    保存治療で改善せず、日常生活に支障がでる場合は手術加療を行います。神経が圧迫されていることが原因であるため、手術では圧迫部(骨・靭帯)を除去します。腰椎のぐらつき(不安定性)がない場合は除圧手術を行います。当院では棘突起縦割式椎弓切除術を行っています。すべり症などのぐらつきがある場合や、椎間孔部の狭窄の場合は金具(インプラント)で補強する除圧固定術を行います。

  • 棘突起縦割式椎弓切除術

    当院では棘突起縦割式椎弓切除術(きょくとっきじゅうかつしきついきゅうせつじょじゅつ)を行っています。これは背骨の背中側にある棘突起を縦割して左右に広げて、神経の圧迫を除く手術です。この手術の利点は、手術中に真上から上下左右に良好な視野が得られることです。また、本法では、棘突起に付着する筋肉や靭帯をはがさないで棘突起を縦割するため、筋肉の損傷が最小限に抑えられます。

    手術の実際

    約4-5cm(1椎間の場合)皮膚を切開します。棘突起を縦割し椎弓を医療用ドリルで削ります。次に分厚くなった黄色靭帯を硬膜から剥がし切除します。十分神経の圧迫が取れていることを確認し棘突起を縫合して元の状態に戻します。ドレーンと呼ばれる管を挿入し手術を終了します。手術時間は約1時間(1椎間の場合)です。

  • 脊椎後方椎体固定術
    適応疾患

    腰椎変性すべり症、腰部脊柱管狭窄症、分離すべり症、腰椎椎間板ヘルニアなど

    手術の実際

    手術は全身麻酔で行います。まず約4cm程度の皮膚切開で、圧迫を受けている神経の除圧を行い、椎間板切除、骨移植術を行い、ケージと呼ばれる人工物を椎体と椎体の間に挿入します。場合によっては人工骨を併用することもあります。
    次に約1.0-1.5cm程度の皮膚切開でレントゲンを見ながらスクリューを挿入しロッドと呼ばれる金属の棒をつないで終了します。手術時間は約2.5時間(1椎間の場合)です。除圧術に比べると侵襲が大きくなりますが、当院ではできる限り経皮的椎弓根スクリューを使用し低侵襲手術を心がけております。従来の固定術に比べ、術後の早期社会復帰・入院期間の短縮が可能となります。それぞれの患者さんにあったガイドを使用したCBT法と呼ばれる低侵襲手術も取り入れております。この手術の正確性について報告しました。

    Maruo, Journal of Clinical Neuroscience, 2020

頚椎症性脊髄症

  • 原因と病態

    頚椎の変形とともに、椎間板の膨隆、椎間関節や黄色靭帯の肥厚などにより神経(脊髄)の通り道(脊柱管)が狭くなり脊髄が圧迫され起こります。日本人は欧米人と比べ生まれつき脊柱管が狭い(発育性脊柱管狭窄)ため発症の頻度が高いと言われています。

  • 症状

    手足のしびれや痛み、運動障害を引き起こします。例えば歩行障害(つまずきやすい、段の上り下りが困難)、手指巧緻運動障害(箸の使用や書字が困難、ボタンがとめづらいなどの症状です。頻尿や残尿感などの膀胱直腸障害をきたすこともあります。

  • 手術の実際

    頚椎症性脊髄症による歩行障害、手指巧緻運動障害を認める場合は手術の適応となります。当院では両開き式椎弓形成術を行っております。全身麻酔下で頭にピンを設置しベッドと固定して行います。後頚部に約5cm切開を行います。頚椎の棘突起を横切りし、脊柱管の屋根にあたる椎弓と呼ばれる部分を出します。正中をドリルで切開し、両側に溝を掘り観音開き式に開きます。開いた部分に人工骨スペーサーを設置し糸で固定し狭くなっていた脊柱管の面積を広げます。手術時間は平均1時間半から2時間です。我々はアーチタイプのスペーサー使用による良好な成績を報告しました。

    Tachibana, Journal of Clinical Neuroscience, 2017

透析性脊椎症

  • 透析患者は全国で約30万人といわれていますが、20年を超える長期透析患者は約7.5%とごく一部です。透析性脊椎症は長期透析患者に発症するといわれており、破壊性脊椎関節症では破壊性変化やアミロイド沈着によって下肢痛や麻痺の原因になることがあります。最もリスクが高い脊椎手術の一つである透析性脊椎症の合併症を麻酔科、循環器内科、集中治療室と協力して少しでも減らすように努力しています。

腰椎椎間板ヘルニア

  • 原因と病態

    椎間板は椎体と椎体の間を支えるクッションの役割を果たしています。年齢や、繰り返される負荷によって椎間板が膨隆したり、線維輪の中にある髄核が神経の通り道へ飛び出してくることにより神経と接触し、痛みやしびれ・麻痺を引き起こします。好発年齢は20歳から40歳で、好発部位はL4/5、L5/Sレベルです。

  • 症状

    腰痛や臀部痛、下肢痛、筋力低下を引き起こします。多くは激痛で日常生活や仕事が困難となります。痛みを避けるように立位の姿勢を保持しようと背中が曲がって見えることがあります(疼痛性側弯)。神経への圧迫が高度の場合は排尿や排便に支障をきたします(膀胱直腸障害)。

  • 治療法
    ①保存治療

    約80%は手術をしなくても症状は改善するため治療の第一選択となります。神経の炎症が原因であるため、消炎鎮痛剤を内服してもらいます。各種ブロック注射やリハビリ療法を行う場合もあります。

    ②手術

    保存治療でも改善せず日常生活・社会生活が困難な状態、下肢の麻痺や膀胱直腸障害をきたしている場合は手術を行います。手術は飛び出したヘルニアを摘出するヘルニア摘出術を行います。当院では手術用顕微鏡を使用し摘出します。約3-4cm皮膚を切開し一部の骨を削り痛みの原因となっているヘルニアを切除します。手術翌日より歩行可能であり、入院期間は約1週間です。腰椎のぐらつき(不安定性)が強い場合は金具(インプラント)による固定術を併用します。

骨粗鬆症性椎体骨折

  • 原因と病態

    骨粗鬆症とは骨の強度が低下し骨がもろくなり容易に骨折を起こす状態を言います。それにより背骨が骨折を起こしたものが骨粗鬆症性椎体骨折です。尻もちをついたり、重いものを持ち上げた際に起こりやすいですが、特に原因がなく折れている場合もあります。

  • 治療法

    骨粗鬆症性椎体骨折に対してはまず保存療法(薬物、装具など)が基本となりますが、患者様の中には保存的治療が効果無く強い体動時(主に寝返りや起き上がり)の痛みが持続したり、骨折椎体がうまく骨癒合しない場合があります。そのような患者様には、BKP (バルーン椎体形成術)の適応の可能性があります。脊椎圧迫骨折によってつぶれてしまった椎体を、骨折前の形に近づけ、椎体を安定させ、痛みをやわらげる治療法です。BKP治療には、バルーン(風船)状の手術器具や医療用の充填剤(骨セメント)を使用します。BKP治療の特長は、低侵襲(5mmの傷が2か所のみ)、短時間の手術(約1時間以内)で、早期に痛みの軽減が行えること、生活の質(QOL)の向上が期待できることです。当院は, BKPの施行可能施設であり、適応のある患者様には積極的に行っております。しかし、骨折状態が酷い例や神経症状を伴っている例では、適応が無い場合もありますので、脊椎班外来(月曜日、金曜日)までお気軽にご相談ください。

成人脊柱変形

  • 原因と病態

    歩行時に杖が必要で歩きにくい。5分以上立っていられない。台所仕事が辛く肘をつかなければできない。洗濯物を干せなくなった、食べたものが逆流し胸焼けがする。これらの症状は背骨が曲がっていることが原因で起こっている可能性があります。

  • 治療法

    当科では海外臨床留学で学んだ脊柱バランスの知識や脊柱変形手術の経験を活かし、高齢者の脊柱変形(側弯、後弯、高度な前傾姿勢、骨折による変形等)に対する手術を積極的に行っております。しかしながら、本邦だけでなく海外でも高齢者の脊柱変形手術の術後合併症は高いとされているため、可能な限り保存的に加療を行い、十分に話し合った上手術の必要性を検討させて頂いております。最近では、手術の侵襲を減らすためにMISt(最小侵襲脊椎固定術)の最新技術であるXLIFやOLIFと呼ばれる腰椎側方椎体間固定術のシステムを取り入れております。背骨の曲がりによる腰痛に悩まされている方は、脊椎外来(月曜日, 金曜日)まで受診の上ぜひご相談ください。

思春期特発性側弯症

  • 当科は兵庫県予防医学協会が行っている「脊柱側わん学校検診」に携わっており、検診で「要治療」や「要経過観察」判定を受けた児童生徒を中心に診察を行っております。必要に応じて、 保存的治療である装具療法を行い、また保存的加療に抵抗し側弯変形が進行してしまった場合には手術療法を行っております。手術療法の際には、脊髄モニタリングを併用し、安全かつ効果的な側弯矯正固定術に取り組んでいます。脊椎班外来(月曜日、 金曜日)までお気軽にご相談ください。

手術の特徴

脊髄モニタリング

  • 適応疾患

    脊柱変形矯正手術、脊髄腫瘍、胸椎靭帯骨化症など

  • 当科では、脊髄手術を安全に行うため、上記疾患のような術中や術後に麻痺の出現するリスクが高い疾患に対しては術中脊髄モニタリングを行っています。方法は特殊な麻酔(筋弛緩薬を制限)を用いて経頭蓋的に大脳皮質運動野を刺激して四肢の運動誘発電位を記録しています。手術中に脊髄の操作や脊柱変形の矯正を行うと術後に運動麻痺が発症するリスクがあるため、術中に運動誘発電位をモニタリングすることにより安全に手術を行うよう心がけております。

最小侵襲脊椎安定術(MISt)

  • 従来は皮膚を大きく切り開いて脊椎を覆う筋肉を全て剥がし、露出させて骨にスクリューを挿入し脊椎の安定化(固定術)を行っていました。当科では、特殊な器具を用い小切開により以前と同様の脊椎固定術を行う「MISt(ミスト)」という最小侵襲手術を積極的に取り組んでいます。この術式を行うことにより患者様の身体への負担は小さくなり早期離床や早期社会復帰が可能となります。また、従来の方法と比べると術後合併症である感染症の頻度が大幅に減ったとの報告があります。当然ながら、全脊椎疾患にMIStの適応があるわけではありませんので、脊椎外来(月曜日, 金曜日)までお気軽にご相談ください。

ハイブリッド手術室での最先端手術

  • ハイブリッド手術室とは高性能X線透視装置と手術台が合わさった特殊な手術室です。手術中にCT撮影が可能であり、安全性の高い手術が可能となります。当院では成人脊柱変形や特発性側弯症手術などに対して行っております。

脊椎班の取り組み

脊椎班の取り組み

  • 武庫川脊椎カンファレンス(4か月に1回開催)

    兵庫医大の関連病院を含めた脊椎グループを中心として症例相談や勉強会、講師に来て頂いてレクチャーなどを2か月に1回のペースで行っています。

  • リサーチカンファレンス(2か月に1回)

    論文の進行状況や学会参加、抄録の締め切り日の確認等を行い個々のリサーチワークをグループ内で共有しています。

  • 抄読会(週1回)

    脊椎に関する最新の論文をレビューし「情報共有することと若い先生に英文論文を読む「教育を目的として抄読会を基本的に毎週行っています。

骨粗鬆症班

診療内容

  • 骨粗鬆症班は毎週水曜日、木曜日に骨粗鬆症外来を行っております。一般の骨粗鬆症はもちろん骨軟化症、骨パジェット病などの骨代謝疾患、白血病の骨髄移植後や腎移植後の骨粗鬆症患者、また骨粗鬆症治療による顎骨壊死患者等も内科、歯科口腔外科と連携をとりながら進めております。

研究

  • 骨粗鬆症班での研究

    骨強度と関連する骨質指標として注目されている「超音波が皮質骨 を荷重方向に伝搬する速度(cSOS: cortical Speed of Sound)」について、当科ではcSOSが臨床上有用となり得るかを、性別、年齢、踵骨骨密度、骨代謝マーカー(BAP、TRACP-5b)との関連を調査しております。

  • 他科との共同研究

    共同研究として内科、リハビリ科、歯科口腔外科と行っているサルコペニアや骨粗鬆症に関するコホート研究があります。この取り組みは地域の中に潜んでいるサルコペニアや骨粗鬆症などの転倒、骨折のリスクファクターに対し調査行い骨折などでADLが低下する前に発見し未然に防ぐことを目的としております。研究としては整形外科と内科学総合診療科が共同で行っている内容ですが整形外科的な要素である骨粗鬆症やサルコペニア、腰痛と内科的な要素であるフレイル、栄養、認知症などとの関連性を調査しており、また歯科口腔外科が共同で行っている内容ですが、先ほどの整形外科的な要素と歯科口腔外科的な要素である咬合力、歯数、咀嚼能力などの口腔関連指標(オーラルフレイル)との関連性について調査しています。

大学内での取り組み

  • 骨粗鬆症、サルコペニア、フレイルに関わる診療科が各科の研究や情報を共有する目的で集まる骨粗鬆症カンファレンスを2018年より企画し開催しております。整形外科、内科学総合診療科、歯科口腔外科、腎透析内科、リハビリ科、リウマチ内科、肝胆膵内科、産婦人科、血液内科等の診療科とリハビリ部、薬剤部、放射線部、栄養部の4部門に加え兵庫医療大学の薬学部、リハビリテーション部が集まり第1回は67名参加、第2回は83名参加と人数も増えてきております。今後このカンファレンスを通して大学内での共同研究や骨粗鬆症リエゾンサービスやがんロコモなどにつなげていけたらとも考えております。