骨軟部腫瘍班

骨軟部腫瘍班
  • 近年、骨軟部腫瘍の診断と治療の向上に目覚しいものがあります。これには、化学療法、画像診断、手術手技の進歩が主な要因です。
    例えば、原発性悪性腫瘍で最も多い骨肉腫は、極めて悪性度が高く1970年代には5年生存率は10〜20%程度でした。しかし、近年ではそれが70%程度にまでに改善しています。腫瘍切除に伴って患肢の切断が行われていたが、患肢の温存術が一般的となっています。一方、残念ながら30%程度の骨肉腫の患者さんは、転移によって不幸な転帰を辿ります。よって、早期の診断と治療はもとより、転移を抑制する新たな治療が期待されています。

診断

骨腫瘍

  • 外来診療で簡便に行えるレントゲン(エックス線)検査が最も重要です。レントゲン検査所見で、骨腫瘍の多くは診断が行えます。さらに、CTやMRIを追加することで、腫瘍の拡がり、骨破壊の程度などの情報が得られて、画像診断の精度を高めることができます。

軟部腫瘍

  • レントゲン検査では観察できないことが多いです。一方、超音波(エコー)検査は軟部腫瘍を可視化できて、腫瘍内の血流評価も行えます。血流評価は良性と悪性の鑑別にも有用です。この超音波検査は、レントゲン検査と同様に外来診療で簡便に行えます。当科では、超音波検査で悪性を疑うときはMRIや造影CTの後、早急にエコー下に針生検を行います。エコー下針生検は低侵襲検査で、日帰りで行えます。針生検の組織から良性または悪性、さらに組織型が決まります。エコー下針生検による正診率は95%程度です。この組織型に基づいて治療方針を決定します。

治療

  • 整形外科を中心に放射線科、形成外科、小児科、リハビリテーションとともに集学的治療を行っています。当科では1年間に骨腫瘍150例、軟部腫瘍190例程度の新たな骨・軟部腫瘍患者さんの治療に携わっています。年間の手術件数は190例程度です。
    良性の多くは、経過観察が可能です。しかし、1) 痛みがあるもの、2) 腫瘍が大きくて骨折を危険のあるもの、3) 悪性化の可能性があるもの、4)腫瘍が大きくて整容的に問題のあるものは手術の適応があります。
    悪性に対しては、1) 化学療法、2) 放射線治療、3) 手術、4) 免疫療法など選択肢があります。当科ではこれらの選択肢を有機的に組み合わせて治療しています。

当科の特徴

  • 当科では低侵襲の検査と手術を積極的に導入しています。これによって、患者さんの早期社会復帰、生活の質 (quality of life) を重視した診療を推し進めています。

    1. 骨腫瘍に対する骨髄鏡切除
    2. 超音波検査による軟部腫瘍の質的診断
    3. 超音波検査併用で悪性軟部腫瘍の安定した切除縁の確保
    4. 腫瘍切除後の機能を重視した再建

骨腫瘍に対する骨髄鏡手術

  • 骨髄鏡手術は、骨内の腫瘍に対して内視鏡を使って行う低侵襲手術です。この手技の利点は、小切開と小さい骨孔ため、術後疼痛の軽減と早期社会復帰が可能となります。

  • 症例1:大腿骨遠位にできた骨巨細胞腫に対する骨髄鏡手術

    患者さんは、術翌日より全荷重による歩行可能です。

    〈大腿骨の骨巨細胞腫〉

    〈大腿骨遠位に内視鏡と鉗子を挿入〉

    〈鉗子による腫瘍切除〉

    〈アルコンプラズマによる腫瘍の焼灼〉

    〈腫瘍切除後の骨内〉

    〈腫瘍切除部に骨セメントを充填〉

  • 症例2:足趾骨にできた内軟骨腫

    12ヶ月で骨のかたちが正常化しています。

    術前

    術後

    術後1ヶ月

    術後12ヶ月

超音波検査による軟部腫瘍の質的診断

  • 超音波は外来で簡単にできる非侵襲的検査です。軟部腫瘍があると、この超音波検査で軟部腫瘍の存在がわかります。近年では、超音波のなかのドプラ法が進歩して、微小血管を観察する検査のなか最も優れたものとなっています。悪性腫瘍の内部には、不整なかたちをした、多くの新生血管が蜘蛛の巣のように張り巡らされています。当科では、ドプラ法でこの新生血管を観察して、良性と悪性の鑑別を行っています。

    〈良性軟部腫瘍〉

    〈悪性軟部腫瘍〉

腫瘍切除後の機能を重視した再建

  • 当科では骨腫瘍切除後の再建方法として、腫瘍用人工関節置換、生理的再建を行っています。生理的再建には、術中体外放射線処理骨や脚延長を行っています。これらの患肢温存術の選択肢の中、患者さんに最適なものを選択しています。

    〈大腿骨遠位の悪性骨腫瘍に対する腫瘍用人工膝関節置換術〉

研究テーマ

  • 当科では骨・軟部腫瘍患者のQOLを重視した治療を行っており、研究もこれに沿ったものです。テーマは、「低侵襲の検査と手術」、「骨肉腫の新たな治療戦略の確立」です。具体的には、以下ものを行っています。

骨髄鏡手術法の確立

  • 従来、骨内の骨腫瘍の切除は、腫瘍のサイズに合わせて骨皮質を開窓して、直視下に行うのが一般的です。この手技では術後の骨折のリスクや疼痛を回避するため、安静固定が必要となります。我々は、内視鏡を使うことで、直径5 mmと非常に小さい骨孔から腫瘍切除を行っています。この手技の利点は、小さい骨孔ため、術後の骨折の危険性や疼痛を少なくでることです。よって、安静固定の期間が短縮され、患者の早期社会復帰が可能となります。当科では、骨腫瘍に対して、本術式を確立すべく臨床研究を行っています。

超音波検査による軟部腫瘍の質的診断

  • 超音波は外来で簡単にできる非侵襲的検査です。軟部腫瘍を疑うときは、MRIの結果を待たずとも、この超音波検査で軟部腫瘍の存在診断が可能です。近年では、超音波のドプラ法が進歩して、微小血管の観察に最も優れた検査法となっています。悪性軟部腫瘍は1-2mm以上の大きさになると、豊富な新生血管をつくり、血管から栄養を得て増殖していきます。当科では、悪性腫瘍の豊富な新生血管をドプラ法で観察して、悪性の鑑別に役立つ臨床研究を行っています。

骨肉腫の新たな治療戦略の確立

  • 骨肉腫は青年期に好発する悪性度の高い腫瘍で、肺転移が最大の予後不良因子です。我々は、当施設で発見されたIL-18が、骨肉腫の肺転移を抑制することを発見しました。その機序は、IL-18が骨肉腫細胞の遊走を抑制するような因子を産生して、骨肉腫の転移を抑制します。現在、このIL-18による免疫療法に加えて、mTOR阻害剤とバルプロン酸を併用する新たな骨肉腫治療の臨床応用に向けて、当大学の病理教室と共同で基礎研究を行っています。

Q & A

骨・軟部腫瘍 (こつ・なんぶしゅよう)とは

  • 骨腫瘍とは骨にできる腫瘍です。軟部腫瘍とはやわらかい軟部組織(おもに筋肉、脂肪組織、皮下、結合組織、末梢神経など)にできる腫瘍です。

良性と悪性の違いは

  • 良性腫瘍は、発生したところから転移することのない腫瘍です。一方、悪性腫瘍とは、他の部位に転移を来す可能性がある腫瘍です。

肉腫とは

  • 肉腫とは骨や軟部組織に発生するがん(悪性腫瘍)です。

悪性骨腫瘍とは

  • 骨にできるがんには、最初から骨に発生する「原発性」のがんと、他の臓器から転移してきた「転移性」のがんとがあります。原発性悪性骨腫瘍の代表は骨肉腫で、その他にユーイング肉腫、軟骨肉腫などがあります。

骨肉腫とは

  • 原発性骨悪性腫瘍のなかでもっとも頻度の高いものです。10歳台の膝関節周囲に好発します。頻度は100万人に1~2人の割合で発生し、日本では年間に200人程度です。かつては、若者を急に襲う“不治の病”といわれ、映画やテレビドラマの題材としてしばしば取り上げられています。しかし、化学療法をはじめとする治療法が著しく進歩し、生存率が飛躍的に向上しています。

    (Mayo ClinicのHPより)

    〈単純X線像〉

    〈摘出標本〉

    19歳の大腿骨に発生した骨肉腫 
    異常な骨膜反応を認める。

軟骨肉腫とは

  • 骨肉腫の次に多く、大腿骨や骨盤に好発します。中年以後の悪性腫瘍です。治療では、化学療法や放射線治療は効果が少なく、手術が唯一の選択肢です。

    〈単純X線像〉

    〈MRI〉

    24歳の骨盤に発生した軟骨肉腫 
    異常な石灰化を伴い、分葉状を呈する。

ユーイング肉腫とは

  • 骨肉腫よりやや年令が低く、10歳以下から10代に発生することの多い悪性腫瘍です。大腿骨、脛骨、腓骨、肋骨、鎖骨、脊椎などに発生し、しばしば発熱や白血球増多などの全身の炎症反応を伴います。骨の外に大きな腫瘤を形成することありますが、化学療法の効果が期待できるため、術前療法を十分に行った後に手術を実施します。また、放射線にもよく反応します。

転移性骨腫瘍

  • 他の部位に発生したがんが、骨に転移したものです。原発としては乳がん、肺癌、前立腺がん、甲状腺がんなどが多いですが、どのようながんでも骨に転移する可能性が有ります。がんに罹患した患者さんで、頑固な痛みが続く場合は、骨転移を疑い必要ある。痛みに加えて、骨強度の低下による病的骨折を来す著しく患者さんのQOLを低下させます。よって、骨折折予防のための手術を行うことが望ましいです。手術には、髄内釘、腫瘍用人工関節、骨セメントなどで骨の補強を行います。時に、放射線治療も追加します。

    〈大腿骨の病的骨折〉