上肢班(肩・肘・手の外科)

上肢班
  • 上肢グループでは肩甲帯から上腕・肘前腕・手関節の疾患・外傷を診療及び臨床研究を行っています。上肢は日常生活において非常に重要な機能を果たしています。特に書字、食事など生活に欠かせない動作であり、スポーツではボールを投げるなどの運動に関わっています。これらの機能が障害されるとスポーツはおろか日常生活にも重大な支障をきたします。当グループではこれらの機能を再建するために様々な治療を行っています。近年では高齢社会伴う変性疾患(軟骨の変性など)の手術が増えており、その他スポーツ競技の上肢外傷についても積極的に治療しております。

手・肘の疾患

  • 当院は日本手外科学会に指定された手外科認定研修施設であり、手外科専門医が手・肘関節の痛みや機能不全に対し、診療治療を行っています。手外科専門医は、手疾患に関する医学的スペシャリストであり、加齢や怪我によって発生する上肢の疾患の発生予防・診療に貢献します。また手運動器疾患全般に関して、早期診断・適切な治療などサブスペシャリティとしての能力を備えることに努めています。当グループでは兵庫県や近畿の症例検討会において、積極的に症例提示を行い新しい知識や稀な疾患のアップデートを行うことを推奨し、世話人としても協力的に参加しています。

  • 外傷

    転倒などで生じる手関節部、肘関節、肩関節の骨折の手術治療を行っています。また、スポーツ障害として生じる野球肘や舟状骨骨折などの治療を積極的に行っています。

  • 炎症性疾患

    手指の狭窄性腱鞘炎や手関節部の狭窄性腱鞘炎であるドケルバン病や上腕骨外上顆炎 (通称、テニス肘)の治療を行っています。

  • 神経麻痺

    末梢神経への圧迫により生じる手根管症候群や肘部管症候群の検査を行い、必要に応じて神経の圧迫を取り除く手術を行っています。 (通称、テニス肘)の治療を行っています。

  • 変性疾患

    母指の付け根の関節(CM関節)の年齢的な変化で疼痛や変形が生じることが多く、そのような病気に対して除痛と関節の動かせる範囲の改善を目的に手術を行っています。 (通称、テニス肘)の治療を行っています。

手外科疾患(肘関節から手指)
手術症例

    • ばね指・ドケルバン病
    • 骨折・脱臼・靭帯損傷
    • 腱損傷(屈筋腱損傷の腱縫合、リウマチによる伸筋腱断裂などの腱移行、腱移植)
    • 末梢神経障害・損傷(手根管症候群、肘部管症候群、末梢神経断裂など含む)
    • 腫瘍と類似疾患(ガングリオン、デュプイトラン拘縮など)
    • 関節疾患(TFCC損傷、変形性関節症、関節拘縮など)
  • 他、骨内異物除去術など含め約200件程度の手術を行っております。さらに骨折や急性期外傷に関しましては、大学病院同程度の手術数を近隣の関連病院にて施行しています。

肩関節疾患

  • 肩関節、肩甲帯(肩甲骨周囲)、上腕骨などの疾患を中心に治療する関節外科班です。
    肩関節外科に関して経験豊富なスタッフが診察、治療致します。

  • 肩関節が痛い

    最も多いのは肩関節周囲炎と呼ばれる四十肩、五十肩です。多くは肩関節の拘縮といい可動域制限が本態となるものですが、病態は様々です。他院で肩関節周囲炎と診断されリハビリや保存的加療をされている方でも腱板断裂やその他の疾患がある方もおられます。
    まず、当院肩関節外科班を受診された患者様は、問診の後レントゲン検査を受けて頂きます。持参頂いたレントゲン写真やMRIがあれば、それを元に診察を開始します。肩関節の診察は整形外科医でも診断に苦慮することがあり、専門性の高い領域と言えます。私たちは、最初の診察でその患者様に追加の検査(肩関節造影検査やMRIなど)が必要かどうかを判断します。肩関節の中の(関節内)病変、肩関節の周囲(腱板や滑液包など)の病変の可能性を判断し、治療方針を決定します。
    関節は骨と骨のつながりで作られていますが、肩関節は骨と骨の接点が少なく、周囲の筋肉や関節包といった軟部組織の働きが重要となります。例えば、俗にインナーマッスルといわれるような腱板という組織は、筋肉でありながら上腕骨と肩甲骨を関節包と一体となって関節の最も深い場所で接合しています。腱板は腕を挙げる際の安定性に関与し、腕を挙上する際に補助的な筋力を発揮します。この腱板機能が破綻すると「腕を挙げることができない」、「高いところにある物を取ることができない(痛い)」という症状が出現します。一方腱板に損傷がなくても、周囲の組織と癒着することで肩関節を硬く(拘縮という病態)させたり、痛みを生じさせたりします。この場合、「腕を後ろに捻る動きができない」、「あるところで肩関節の動きが止まってしまう」「その時に痛みが走る」という症状が出現します。
    そこで、私たちは治療を含めた動的検査として肩関節の関節造影を行っています。関節造影検査では、関節の中に注射針で造影剤と局所麻酔を注入します。このとき、さきほどの腱板に損傷があればMRIでとらえきれない小さな損傷でも関節外への造影剤の漏れとしてレントゲンで描出されます。また肩関節内に造影剤が注入されることで、関節内部で生じた癒着を関節内部から剥離し、関節の動きを改善します。また癒着や関節の萎縮により関節内圧が上がり痛みを生じているような病態では、関節液の逃げ道を作ることで関節の圧を下げ疼痛を軽減します。このように、関節造影検査により動きを改善させ、痛みを軽減できる可能性があります。このような治療(検査)を行っても、なお肩の痛みが取れない、腕が挙がらないというような患者様には手術が考慮されます。

    〈当院における肩関節疾患に対する手術的治療〉

  • 肩関節腱板断裂

    現在多くの施設では肩関節疾患に対し関節鏡視下手術が行われています。肩関節の鏡視下手術の場合、約1cm弱のポータル(穴)を約5か所に設置されます。そのポータルから内部を観察し、損傷部位を修復していきます。
    また、皮膚を切開し肉眼で腱板を確認し、確実に骨に修復する方法もあります。切開範囲は約5cmの切開ですので、それほど侵襲は大きくありません。腱板の存在するスペースは非常に狭く、関節鏡で腱板の断裂形態、質、上腕骨頭をどのように覆うかを判断するのは難しいことがあります。また、切開する方法では大幅に手術時間を短縮できます(手術時間40分から1時間前後)ので、全身に対する負担を軽減する事が出来ます。

    〈肩関節鏡・シミュレータ〉

    〈肩関節鏡映像・腱板断裂〉

  • リバース型肩人工関節

    さらに2014年4月から腱板広範囲断裂つまり腱板断裂のなかでも非常に大きい断裂に対し、リバース型(逆行型)人工関節の使用が日本で承認されています。当科でもこのリバース型人工関節を導入しており、これまでは縫合困難とされてきた非常に大きな腱板断裂に対し上肢の挙上の獲得目的で施行しています。簡単に言うと肩関節は肩甲骨と上腕骨という骨と骨でできた関節でありますが、その構造は肩甲骨の関節窩(カップ)と上腕骨頭(ボール)の関係で成り立っています。その周囲は関節包と腱板という軟部組織で覆われていて、腕を挙上させる際に三角筋と協調して働きます。その腱板の広範囲な機能不全に対し、リバース型(逆行型)人工関節が導入されました。その名の通りカップとボールが逆の関係、つまり肩甲骨側にボール、上腕骨側にカップを設置する人工関節であります。この形状により、上肢挙上の最も大きい三角筋の筋力を“腱板機能の助けなし”に、十分に発揮することができると考えられています。現在、年間30例以上のリバース型肩人工関節を施行しており、全国でも有数の症例数となっています。

  • 反復性肩関節脱臼

    “肩関節が緩い”状態を来す疾患があります。肩関節を脱臼すると、ある一定の割合で何度も脱臼を繰り返す反復性肩関節脱臼という状態となる患者様がいます。この病態を治療するには基本的には手術療法しか選択肢がありません。そして、この反復性肩関節脱臼には様々な手術方法があります。当院では肩関節の不安定性が強い方や、亜脱臼を繰り返すような方にはPutti-Platt変法や関節鏡視下Bankart修復術を用いています。Putti-Platt変法は前方に位置する腱板である肩甲下筋腱を切離し関節内から緩んだ関節包に糸を掛け引き上げ肩甲下筋腱に縫合する方法で、再脱臼が少ない非常に優れた手術法です。関節鏡視下Bankart修復術は関節鏡を用いた関節唇の損傷を修復する術式であり、病態により手術方法を選択します。
    またコンタクトスポーツ(ラグビー、アメリカンフットボールなど)や、それに準じたスポーツ競技を行う患者様にはBristow変法という方法を用いています。肩関節の繰り返す脱臼は主に前下方への脱臼であり、それを予防する為に、烏口突起(肩甲骨にある骨の突起)を切離し、靭帯、腱成分を残したまま肩甲骨臼蓋(関節窩)の前下方に打ち込みます。そうする事で前下方に壁が出来、上腕骨骨頭が脱臼しなくなります。また、術後療法も自宅で行う事が出来ます。再脱臼率も低く、優れた治療法と考えます。

  • 肩関節不安定症

    “肩関節が緩い”病態のなかで肩関節に不安定性があり、上肢を挙上した際(肩関節屈曲位)、上腕骨頭が後下方へ脱臼してしまう病態があります。これらの病態を防ぐには挙上方法を改善する指導以外では手術療法が選択されます。上後腸骨棘より自家骨を採取し、肩甲骨臼蓋(関節窩)後下へ骨移植を行います。脱臼の形態、年齢によって、肩甲骨臼蓋の骨切りを行いその部位へ骨移植をするglenoid osteotomyを行うか肩甲骨臼蓋後下方へそのまま移植し、内固定をするglenoplastyを行うかを決定します。

肩関節領域(鎖骨、肩甲骨含む)
手術症例

  • 肩腱板断裂、反復性肩関節脱臼、肩甲骨骨折、鎖骨遠位端骨折、鎖骨骨幹部骨折、上腕骨近位端骨折、偽関節、腕神経叢麻痺、変形性肩関節症、肩鎖関節脱臼などで、Bristow変法、Putti-Platt変法、McLaughlin法、人工関節手術(リバース型人工関節)、Dewar変法などを行っています。